中国ヒューマノイド量産の強さと日本の課題

ITmedia AI+2026年10月16日 (金)
  • •中国メーカーのヒューマノイド、2026年上半期に1万8500台出荷
  • •量産を支える5要因は政府方針、資金、供給網、発注、現場での品質改善
  • •須毛原氏、日本は神経・センサーに強み、AI演算ボード量産企業は不在

中国では観光地でのコーヒー販売、無人薬局での薬の受け渡し、送電設備の点検などにロボットが使われ始めています。ヒューマノイドは量産が急速に進み、中国メーカーの2026年上半期の出荷台数は1万8500台に達し、2025年の世界年間出荷台数を半年で上回りました。中国でヒューマノイドを手掛ける企業は140社を超えています。

中国ビジネス支援会社SUGENAは2026年9月29日、オンラインセミナー「フィジカルAI解体新書」を開催しました。須毛原勲社長は、ヒューマノイドを「大脳」「小脳」「神経」「関節」「五感」などに分け、中国、米国、日本の強みや普及の課題を説明しました。中国が速く、安く、大量に作れる要因として、政府の方針、政府やファンドによる資金集中、EV産業で築いた供給網、国営企業や地方政府の発注による需要喚起、完成度7割で市場に出して現場で品質を高める姿勢の5つを挙げました。

政府方針について須毛原氏は、中国が2026~2030年の第15次五カ年規画で「具身智能(フィジカルAI)」を未来産業に位置付けたと説明しました。第13次五カ年規画(2016~2020年)で名指しされた新エネルギー車(NEV)が、後に主力産業へ成長した例も挙げました。一方、量産の強さだけでは、現場で働けるロボットにならないと指摘しました。

須毛原氏は機能を、人の身体になぞらえて整理しました。情報処理を「脳」、指令を届ける機能を「神経」、関節を動かす機能を「筋肉」、周囲を捉えるセンサーを「感覚器官」、各要素を一体化したものを「身体」としました。脳のうち大脳は周囲を認識・判断して行動を決める機能で、AIモデルと機体上で動かすAI演算ボードに分かれます。

AIモデルは、言語を扱うLLMに視覚を加えたVLM(視覚言語モデル)、さらに動作を出力するVLA(視覚言語行動モデル)へと広がっています。中国のLLM性能は米国に迫る一方、ロボットを動かすVLAは世界的な主導権が定まっていません。日本でも研究が進みますが、実機に搭載して公表されたVLAはまだ少ないといいます。AI演算ボードでは米NVIDIAの「Jetson」が事実上の標準になりつつあり、中国製ヒューマノイドにも搭載例が多く、中国で国産化も進んでいます。日本にはロボット向けAI演算ボードを量産する企業がありません。

小脳に当たる姿勢・関節制御では、制御ソフトやサーボドライバが関節を1ms級で制御します。クラウド通信を介していては間に合わないため、機体内で処理する必要があり、須毛原氏は大きな課題の1つに挙げました。指令を関節へ届ける神経に当たるマイコンやパワー半導体には、必ずしも最先端品は必要なく、日本にも有力企業があります。センサー素子にも日本の強みがあり、須毛原氏は「脳は現時点では買うしかない。ただ、神経と感覚器官は国内で持てる」と述べました。