IRIS、細胞のシグナル履歴を推定
- •MITとホワイトヘッド研究所の研究者が、異なる細胞種にまたがるシグナル履歴を再構成するIRISを開発
- •数千個のヒト幹細胞と6つの経路で学習し、マウス胚細胞のシグナルを予測
- •マウス胚の実験で、肺特有の細胞発生を促す経路に関するIRISの予測を確認
MITとホワイトヘッド研究所の研究者は、生物学助教のプリン・リーと大学院生のニコラス・ハッチンスを中心に、細胞が発生中に受け取った化学シグナルを特定する機械学習モデル「IRIS」を開発しました。研究では、シグナル伝達経路ごとに異なる遺伝子活動のパターンが生じ、その特徴が細胞種をまたいで共通することが分かりました。このパターンを手掛かりに、細胞種ごとに経路を一つずつ調べなくても、細胞のシグナル履歴を再構成できます。
IRISは細胞全体の遺伝子活動からパターンを検出し、発生の特定段階でどのシグナル伝達経路が働いていたかを推定します。研究チームは、複数の発生段階で6つの主要なシグナル伝達経路を数十通りに組み合わせて刺激した、数千個のヒト胚性幹細胞の実験測定値を使ってモデルを学習させました。このデータセットは、シグナルの組み合わせが細胞の振る舞いに与える影響を示す地図となりました。チームは次に、細胞が急速に多様な種類へ分化する原腸形成期のマウス胚から採取した個々の細胞でIRISを試しました。モデルは心臓、腸、筋肉、脊髄の組織になる細胞で、各経路がいつ、どこで活性化したかを予測し、学習時に扱っていない細胞種についても予測しました。
チームは、肺の発生に重要な細胞種の形成に関わるシグナルもIRISで特定しました。モデルは特定の経路を活性化すると肺特有の細胞発生が促されると予測し、マウス胚の実験でその予測が確認されました。研究者らは、正確なシグナルの組み合わせを特定すれば、実験室でより信頼性の高い肺組織モデルを作れる可能性があると述べています。そうしたモデルは喘息、肺がん、肺線維症の研究や治療候補の検証に役立つ可能性があり、損傷組織の再生治療にも知見をもたらすとチームは述べています。
オープンアクセスの研究「摂動スクリーニングと転移学習による単一細胞のシグナル履歴の再構成」は、9月8日にNature Methodsで発表されました。リーは、転移学習(ある課題で得た知識を別の課題に応用する手法)を、主に英語で学習させた音声認識システムを他の言語の認識に使うことに例えました。研究者らによると、この手法により、すべての細胞種で全経路を一つずつ実験するのは現実的でない規模でも、マウスやヒトの胚における細胞のシグナル履歴を地図化できる可能性があります。