製造業の競争力、AIモデルから学習システムへ

ITmedia AI+2026年11月4日 (水)
製造業の競争力、AIモデルから学習システムへ
  • •JIMTOF2026のセミナーでヤマザキマザックと西垣淳子氏が製造業の競争力を議論
  • •HILLTOPとマザック、実加工の知識を次の作業に生かす学習サイクルを重視
  • •優れた学習システムの要点を5つ提示、マザックのAIエージェント展開には約2年

ヤマザキマザックは、2026年10月26~31日に東京ビッグサイトで開かれた「JIMTOF2026(第33回日本国際工作機械見本市)」で、政策研究大学院大学特任教授の西垣淳子氏と同社上席執行役員の澤田洋祐氏が、製造業の競争力を生む「秘伝のタレ」について講演しました。製造現場でAIにノウハウを学習させる動きが広がるなか、AIが熟練者の知識を再現できるようになった場合、企業固有の強みをどう保つかが論点になりました。

西垣氏は、京都府宇治市のHILLTOPを例に挙げました。同社ではAI活用を含むDXを進めていますが、AI導入を出発点にしたのではなく、「人が面白いと感じること」、つまり新しい挑戦を重視していると説明しました。一度行った作業を機械に任せ、人が次の挑戦に移るサイクルにAIを組み込んだ結果、挑戦の回転が速まり、学習範囲も広がったといいます。

澤田氏によると、ヤマザキマザックはマザトロールプログラムを軸に、製造現場でフィジカルAIを実現する取り組みを進めています。暗黙知(言葉にしにくい現場の知識)を形式知にするには、業務で何をしたかを把握することが重要だとしています。マザトロールには、何をどう加工したかの記録が詳しく残り、加工内容は各社固有の資産になります。その学習結果を次の加工に生かす仕組みが、競争力につながるとの考えです。

同社は、社内データで基礎学習させた「マザック基盤モデル」を用意し、納入時に顧客データで調整して顧客固有モデルを作る計画です。さらに工場で使いながら学習させ、顧客工場に固有のモデルへ育てると澤田氏は説明しました。工場、工程、機器ごとに加工条件が異なるため、ある工場の条件を別の工場でそのまま使っても、同じように作業できるとは限りません。加工技術が平準化されれば、その固有性の価値が失われると述べました。

西垣氏は、HILLTOPとヤマザキマザックは現場や基盤が異なっても、実加工で得た知識を次の加工や判断に生かす点で共通すると指摘しました。競争の焦点は個々のAIモデルから学習システムに移り、導入後も賢くなり続ける力が重要だと強調しました。

西垣氏が示した学習システム構築の要点は5つです。成功だけでなく失敗や試行錯誤、判断理由をどう記録するか、AIの提案・実加工・評価・再学習をどう循環させるか、精度や品質を納期・原価・収益につなげるか、現場知の権利や利用範囲、利益配分をどう決めるか、異なる機械やCAM、企業を越えて知識を使えるようにするかです。澤田氏は、同社のAIエージェント展開まで約2年かかるとし、その間に仕組みと加工データの準備を進めれば、AI時代にすぐ価値を得られると述べました。