アジア太平洋の司法におけるAI利用指針
- •アジア太平洋地域の法曹関係者は、司法の現場でAI利用が加速する中、人間による監視体制の維持を強く求めている。
- •同地域におけるリーガルテックへの投資は、2030年までに110億米ドルを超えると予測されている。
- •フィリピンは人間中心のAIフレームワークを採用し、タイはAI生成コンテンツの開示を義務付けた。
2026年6月22日、タイのチュラロンコン大学にアジア太平洋(APAC)各国の法律専門家、裁判官、政策担当者が集まり、司法システムにおける責任あるAI活用のための統治枠組みを策定した。議論の焦点は、裁判手続きにおける公平性、説明責任、人権保護を担保するために、人間による監督を必須とする人間中心のプロセス(human-in-the-loop)を維持することに置かれた。国連開発計画(UNDP)の予測によると、同地域のリーガルテック投資額は2023年の約50億米ドルから、2030年までに110億米ドルを超える見通しである。
各国では既にAIツールの導入が進んでいる。ベトナムでは130万件以上の判決を学習させたバーチャルアシスタントが運用され、300万回以上の利用実績があり、裁判官の業務負荷を最大30パーセント軽減した。フィリピンではAI文字起こしプログラムの試験運用により、作業時間が50〜80パーセント短縮され、精度も70〜95パーセントまで向上した。同国は2026年2月、ASEANの司法機関として初めてユネスコのガイドラインに準拠した「人間中心の拡張知能フレームワーク」を正式に採択した。
日本と韓国は、AIはあくまで法律専門家を支援するツールであるべきとの立場を強調した。早稲田大学大学院法務研究科の石田京子教授は、日本の裁判所は人間による監督を最優先しており、最高裁判所は証拠分析や判決文作成への生成AIの活用に対して慎重な姿勢を維持していると指摘した。同様に韓国の大法院も、AIベースの司法支援プラットフォームを導入しつつ、システムの生成出力に対する人間の責任を義務付けている。タイ当局は、AIによる判断のバイアスやエラーに対する開発側の責任の欠如を懸念し、2025年11月17日施行の規制を通じて、訴訟当事者に対しAI生成コンテンツの開示と精度の独自証明を義務付けた。UNDPの代表らは、技術の統合を拡大する前に、透明性や説明可能性を含む人権原則を優先すべきだと強調した。